アイマリンプロジェクト
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第1話 後編 自由機甲楽団

(「脳神経が書き換えられる」? そんな生易しいものじゃない!!)

カイトには分かってしまう。この曲に触れ続ければ変わってしまうのは、魂だと。
現にすでに自分はそれを受け入れたくなっているではないか。
もっと聴いていたい。
この声を、音を、熱狂を――

だがその願いに反して、その音は出し抜けに途切れた。

「第一級政治犯罪者集団《自由機甲楽団》! お前達を逮捕する!!」

そんな声が音楽を遮ったのだ。それは《自由機甲楽団》の音楽よりさらに巨大に増幅されていたが、もっと乱暴で耳障りな音だった。近くで聞けばそれだけで気を失いかねないほどの超高出力の音響拡大装置。
そんなものを使う連中は決まっている。

「逃げろ! 《S_N》だ!!!」

ライブを見ていた人々が我先に逃げだしはじめたのも無理はない。 《EDEN社セキュリティ特務部門「Salvation_Navy」》……略称《S_N》。《ELEUSIA》の治安維持を担う特殊部隊。 関われば破滅しかないと言われるその部隊が、目の前に現れた。人数は四人。 専用の黒いトランスポーターの上に乗ってステージへと向かっている。

「みんな、落ち着いて! 大丈夫だから!」

ステージ上の少女の声にカイトは内心で反論した。

(落ち着けるかよ!)

《S_N》の手にあるのは《MPD》……《マルチファンクション・ピース・デバイス》。間抜けな名前とは裏腹に凶悪な性能を誇る《S_N》の最新武装だ。鎮圧用のテーザーモードから、暴徒鎮圧用の高火力モードまでを切り替えて使うことが出来る「平和のための」武器である。現在はテーザーモードに設定されているはずだった。
問題はそのテーザーモードだ。当たっても痺れるだけで命に別状はないとされているが、あまりにも出力が高いため、下手をすれば障害が残るどころか命を失うこともあるという。その上、もし当たって逮捕されれば、その後に何が待っているのかは誰も知らない。
逮捕された後、帰ってきたものなどいないのだから。
トランスポーターに乗った四人の《S_N》が持つ銃からその光線が次々に放たれる。ステージ上を狙ったものだったが、勢いで観客に当たってもまるで構わない、という大雑把な攻撃だった。実際に当たったのは周囲の観客で、ステージ上のものたちは素早く避けている。

――次の瞬間、ステージに歌声が満ちた。

あの少女が歌ったのだ。
奇妙なことが起きる。
カイトが認識できたのは、柔らかい歌声に空間が満たされたことだった。そして、その柔らかな歌声は輝きを持つ水へと変わり、放たれた光線の前で織り重なりヴェールのようにその射線を遮ったのである。

挿絵

少女とカイトの目が合った瞬間に。
一呼吸の間、少女とカイトは見つめ合う。

「え?」

小さな呟きが少女の口から漏れる。それから何かを言おうと口を開こうとする。
だが、その続きを言うことは出来なかった。
代わりにその口から出てきたのは激痛による叫びだった。

「――ぁああああああああ!!!」

少女に雷魚が放った光線が当たった。
カイトのせいだった。目が合い、急に止まった少女は雷魚にとっていい的となってしまったのだ。

「うっ……くっ……」

当たり所が良かったのだろうか、少女は気を失うことはなかったが、苦悶の表情で身を埋めていた。
次の瞬間。いきなり、景色が変わった。

(書き換えられていた市場の景色が元に戻ったんだ!)

「《波》が破れた! 全員離脱しろ!!」
「待て! 貴様ら! ……お前ら、早く動け! やつらを逮捕しろ!」

ステージの方から声が聞こえる。少女の仲間が脱出していくのを《S_N》が追っていくようだ。
しかし、少女はここにいる。カイトの目の前に。
すぐに追っ手が来るはずだ。
カイトは迷わなかった。

「こっちだ!」

少女に肩を貸し、抱き起こす。少女は苦痛に苛まれながらもカイトの意図を理解して歩きはじめる。
カイトはトランスポーター用の道路から、細い歩行者用の通路へと入る。そうすれば円形交差点にいる《S_N》からは見えなくなる。

「お前だけは逃がさんぞ! ええい、道を空けろ!!」

後ろのほうから雷魚の声が聞こえてくる。観客をかき分けるのに苦労しているようだった。
だが、それでも追いつかれるのは時間の問題だろう。雷魚は《MPD》を乱射しながら群衆をこじ開けているのだから。
この整然とした市場の中に隠れる場所などない……普段通りであれば。

「こっちだ!」

カイトは少女を連れて、心当たりの場所に向かう。
そこは、カイトが覚えていた工事中の区画だった。どういう理由によるのか、実際には工事は行われておらず、いつまでも封鎖されたままになっている。
柵を乗り越え、その裏へと身を隠す。
少女と二人、息を潜めてじっと待つ。それはひどく長い時間だった。
一体どれほど経ったのだろうか。
《S_N》がいなくなったと思えるまで待ってから、二人は立ちあがった。
どうやら、少女の身体には痺れなどは残っていないようだった。

「ありがとう、助けてくれて」

そう言って微笑んだ少女の笑顔に頬が熱くなり、カイトは思わず顔を逸らしてしまう。

「いや……まあ、うん」

Coming soon... 次回