アイマリンプロジェクト
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第7話 ハーモニー

「これが《遺跡》かあ……」
「カイトさん、口開いてますよ。間抜け面がもっと間抜けなことになってます」

「うーん、この扉……私の《波》じゃ開かないみたい」
「……アクセスが拒否されている」

挿絵

《大森林》で竜に襲われ、《地下迷宮》で巨大な骨と死闘を繰り広げ、ようやく辿り着いた《遺跡》。
今、カイトたちの目の前にあるのは、石のような素材で出来た巨大な扉……というよりは蓋だった。蓋は大きく二つの部分に分かれており、そこが開くのだろうと思われる。扉には複雑な模様が彫り込まれていたが、それが意味するところは分からない。
その脇には人の背ほどの操作盤がある。なんとなく、そこを操作すれば扉が開くのだと思われた。
が、肝心の開き方が分からない。
アイマリンとイチカの《波》も通じないようだった。

「うーん、こじ開けてみるか?」
「じゃあやってみてくださいよ、カイトさん」
「よし……とりゃあ!!!」

カイトは相変わらず何の役にも立っていない棍棒を振り上げ、扉に叩き付けた。
扉は微動だにせず、ただカイトの手が痺れただけだった。

  「やっぱりダメか」
「そりゃそうですよ……まあ、かけ声だけは立派でしたね」

イサナがニヤニヤとカイトのことを見る。

「俺だってダメだとは思ってたけど……そもそもオルカはどうするつもりだったんだ?」
「その情報はないんですよね。もらったのはここの座標だけで」
「くっそー、ここまで来て無駄だったってことになるのはいやだな」

カイトは肩をすくめて、棍棒で重厚な扉をこつんと小突いた。

「おーい、開いてくれー」

カイトのぼやきが聞こえたかのように、扉の模様に突然光が点った。

「……認証された?」
「カイト! そこから離れて!」

アイマリンの声にカイトとイサナは扉の上から慌てて飛び降りる。
あやうく、カイトたちは落ちるところだった。扉が轟音を立ててゆっくりと開いたからだ。その下には階段があった。

「今のって……カイトさんの声に反応したんですよね?」
「……俺?」
「間違いない、カイトの声……命令に対して認証が下りた」
「またカイト? うーん、やっぱり……カイトには何かあるのかな。どうなの、カイト?」
「……聞かれても分からないなあ」

カイトはひとしきり唸ったが、そう言われてもさっぱり分からない。

「なんか、カイトさんが役に立ってるようで納得いきませんが……」
「失礼な」
「ひとまず、下りましょうか」

イサナの言葉に従い、扉の向こうから現れた通路の中へ一行は下りていった。

***

また《地下迷宮》のように長々と歩かされるのかと思ったのだが、拍子抜けするほど《遺跡》の探索はあっさりと終わった。まっすぐな通路を歩いて進んだ先にはエレベーターがあったのである。

「……このエレベーター……どこかで……」
「イチカ、見覚えあるのか?」
「似たようなものをどこかで見た……だけど、思い出せない」
「まあ、乗るしかないか。扉、開いたし」

カイトたちを迎えるように勝手に開いた扉に一行は乗り込んだ。
エレベーターは自動的に動き出し、しばらくすると止まった。
辿り着いたのは巨大な空間だった。

「すげえ……」
「綺麗……」

思わず声が漏れる。それほどに壮麗な光景だった。
カイトの背丈よりも大きな結晶が樹木のようにそこら中から生えている。ドーム状になった天井をぐるりと覆うような水晶の柱群。それらはうっすらと発光し、空間内を照らした。
エレベーターを降りた正面。
そこには一際巨大な水晶が立っている。

挿絵

「ここが目的地……だよな」
「そうだと思います」

カイトの呟きにイサナが答える。だが、尋ねるまでもなくカイトには分かっていた。
この場所こそ、オルカがカイトたちを送り込んだ理由。
カイトの心の中に感動が広がる。《大森林》、《地下迷宮》……。
戦ってきた強大な敵。
厳しい修業によって覚醒するカイトの潜在能力。
そして、遂に手に入れた伝説の武器。
そう、あの苦しい道筋はここに辿り着くためだったのだ――

「――今こそ、俺たちの冒険が報われる時が来たのだ」
「カイトさん、身に覚えのない冒険を捏造して語るのやめてください。強大な敵と戦ったのはアイマリンさんとイチカさんですし、カイトさんは覚醒してません」

「でも、よく分かんないけど役には立っただろ? ファーブニルに乗せてもらえたり、この《遺跡》に入れたり」
「そういうの潜在能力って言いませんから! そもそも修業とかしてないでしょ」
「……ダメか。で」

カイトは目の前の巨大な水晶に触れる。
ひんやりとした感覚が掌に伝わり……

何も起きなかった。

「なあ、どうすればいいんだ?」
「知らないですよ!」
「どうしたらいいか分からないから、それっぽい雰囲気出せばなんとかなるかなと思ったんだけど……ダメか……おーい。誰かー」

カイトは適当に呼びかけるが応えるものはいない。
ただカイトの声が響くだけだ……と思ったのだが。

「……! カイト、待って!」
「聞こえる……?」

アイマリンとイチカが反応した。

「聞こえる? 何か聞こえるか?」
「……私には何も聞こえませんが」
「ううん、聞こえるの」
「……確かに聞こえる。これは……旋律か?」

どうやら、アイマリンとイチカには何かが聞こえてるらしい。

「俺たち凡人チームには何も聞こえないけど、不思議パワーチームには何か聞こえてるっぽいな」
「カイトさんと一緒に凡人チームに入れられたのには厳重に抗議したいです」
「不思議パワーチーム? カイト、その命名はちょっと」

アイマリンは困ったように眉を下げる。 イチカがこてんと首を傾げた。

「ふしぎぱわー……それは私とアイマリンのことか」
「そうだ」
「なるほど……私のこの力はふしぎぱわーと呼ぶのか」
「イチカ⁉︎」
「その通り。空飛んだり、扉を動かしたり、イチカなんか剣まで作って戦うだろう。不思議パワー以外の何者でもない」
「カイトさん、適当なこと言って定着させようとするのやめてください」
「……ふしぎぱわー……うむ……ふふふ……」

イチカは自分の掌を見つめながら嬉しそうに笑った。

「つまりアイマリン、私とお前はふしぎぱわー仲間か」
「イチカが気に入っちゃった……」

アイマリンが溜息をつく。

「って、そんなのはどうでもいいの! 私とイチカには聞こえてるの、たぶん、この《遺跡》の声が」
「ふしぎぱわーで」
「そうふしぎぱわー……ってだから、イチカ、もうそれはいいから! 話が進まないから!」
「出来れば忘れてほしいですね……《遺跡》の声が聞こえてるんですね、アイマリンさん」
「イサナ、ナイス軌道修正。そうなの」
「俺たち凡人チームには聞こえていないが、一体どんなのが聞こえてるんだ?」

カイトの質問にアイマリンとイチカが目を見交わす。

「これは、歌……だと思う」
「だが、これは……なんだか寂しい」
「そうだよね」
「寂しい? 寂しい歌なのか?」
「そうじゃないの、そうじゃなくて……なんだろう、物足りないっていうか」

うーん、とアイマリンは悩むが、カイトとイサナにはそもそも何も聞こえないので、一緒に悩むことも出来ない。

「なあ、俺には聞こえないからちょっと歌ってみてくれよ。アイマリンでもイチカでもいいから」
「いいよ。じゃあイチカ、一緒に歌お?」

 何気ないアイマリンの言葉に、イチカは何故かびくっと大きく反応した。 

「歌? ……歌はダメだ、私はいい」
「……? じゃあ、私だけで歌うね」

その反応の不自然さに首を傾げつつも、アイマリンは歌う。
それは単純だが美しい旋律だった。アイマリンの綺麗な歌声が水晶のホールに伝わる。

「このメロディを《遺跡》はずっと繰り返してる」

「なるほど……確かに物寂しいな」
「そうですね。寂しいというか……うーん、もうちょっといい表現がある気がするんですが……なんだろう」
「アイマリンはさっき物足りないって言ってたな」

「ああ、物足りない……そっちのが近い。物足りない……足りない……」
「……足りない?」

イサナの言葉に、アイマリンが、はっと目を見開く。

「それだ! 歌ってみて分かった。このメロディ……足りないんだ!」
「足りない?」
「ところどころ、不自然な空白があるでしょ? ここを埋めないといけないんだと思う」
「埋めるって……一体どうやって」

カイトには全く分からないが、アイマリンはふふふと笑った。

「私分かっちゃった! これはずばり、輪唱だね!」
「りんしょー……ってなんだ?」
「歌の追いかけっこだよ。ちょっとカイト、歌ってみて」
「歌うって……このメロディをか?」
「そう」

カイトは言われた通りに歌ってみる。
メロディは単純とはいえ、少し聞いただけではうろ覚えである。
その上、なかなか気恥ずかしいものがあるが、ともかく頑張ってみた……のだが。

「え、えーと……」
「……ふ」
「……カイトさん、独特の音楽センスです、ね」

アイマリンに困られ、イチカに唇の端で笑われ、イサナには妙に気を遣われてしまった。

「……ちっ、どうせ俺は下手ですよ」
「イチカかイサナ、お願いしていい?」

「……私はダメだ。イサナに頼んでくれ」
「わ、私ですか……? 私も自信はないですが」
「……今のカイトより?」
「流石にそれよりはマシかと」
「ひどいぞお前ら!」

自信はない、と言いながらもイサナの歌はなかなか悪くなかった。アイマリンのように上手くはないが、素直な歌い方で耳に心地よい。

「イサナ、そのままそれを繰り返していてね。私につられないように」

イサナが頷いたのを見て、アイマリンがイサナよりやや遅れて歌い出す。
同じ旋律を、少しだけ後ろから追いかけるように。

「なるほど……追いかけっこね」

見事なものだった。
旋律に欠けていた部分がパズルのようにピタリとっていく。
呼応し、響き合う二つの旋律。
そこには先程までの物足りなさはない。
イサナは時々アイマリンの歌につられそうになりながらも、なんとか歌いきった。

「……っていうことだと思うんだ」

歌いきったアイマリンが言う。カイトは頷いた。

「これで間違いない……と思うんだが。このメロディをどうするんだ?」
「え……? それは考えてなかったかも」
「ちゃんと歌えたと思うんですが……特に反応はないみたいですね」

大きな水晶を見上げるが、変化はない。
うーん、と唸っていたが、急にイサナが声を出した。

「あ! そっか!」
「イサナ、何か気付いたのか?」
「不思議パワーですよ! ……しまった、私まで使ってしまった。これでは定着してしまう」
「……ふしぎぱわー」
「もう諦めろ、イチカは完全に気に入っている」
「くっ……ってそれはどうでもよくて。この歌、アイマリンさんとイチカさんが歌わないとダメなんじゃないですか。私じゃなくて」
「そっか。アイマリンの歌には力がある。イチカにも同じような力があるなら」

カイトの言葉を、イチカの言葉が遮った。

「歌はダメだ!」

「イチカ……さっきから、どうしたの?」
「……歌は、禁止されている」
「禁止?」

イチカは小さく震えて俯いている。その表情には動揺が表れていた。
カイトは訝しむ。
わずかな間だったが、これまでのやりとりで、イチカはあまり感情を表に出さないと分かっていたからだ。ここまで動揺するのは珍しい。

「禁止って……誰から?」
「誰から……? 誰からだ……?」

アイマリンの言葉にイチカは首を傾げる。本気で分からない、という表情だった。
イサナが唸る。

「その様子……《S_N》の思考制御かと思われます」
「思考制御?」
「《S_N》が記憶を制限しているという話はしましたよね。上手く使って誘導すれば、人の思考をある程度制御できる……今、イチカさんに歌を禁止しているように」

イチカは、はっとする。何かを思い出したらしい。

「《S_N》……そうだ、《S_N》……カンディルに言われたんだ。私は決して歌ってはいけない。歌えば……崩れるから、と」
「崩れる? 何が?」
「……分からない」

苦しげに首を振るイチカ。その肩にアイマリンがそっと手を置いた。

「イチカ。歌おう。誰も私たちに歌を禁止したり出来ない」
「でも」
「イチカが歌いたくないなら、いい。でも、誰かから禁止されてるからって言うんだったら、そんなのは気にしなくていい。イチカのしたいようにして」
「……私のしたいように」

イチカはそう呟く。

「急に言われても分からない。歌いたいのか……歌いたくないのか」
「困りましたね。イチカさんの歌が必要なのだとしたら……出来れば歌ってほしいのですが」
「イサナ、ダメだよ。歌は禁止することは出来ないし、強要してもいけない」
「……そうですね」
「ここは、俺の……会話担当の出番かな」

カイトはイチカにそっと声をかけた。

「イチカが嫌じゃないんだったら……俺はイチカの歌が聞いてみたい」
「なぜ?」

カイトはにっこりと笑う。

「お前の歌にはきっと、不思議パワーがあるからな」
「……ふしぎ、ぱわー……」

イチカが呟く。噛みしめるように。
下を向いていた瞳を上げ、カイトの目をまっすぐに見つめた。そこには、決意の炎が燃えている。

「……ふしぎ、ぱわー!」
「さあ、見せてくれ、イチカの不思議パワーを‼︎」

「流れおかしくないですか、これ。これでいいんですか」
「うーん、いいんじゃない? イチカが歌いたくなってくれたなら」

アイマリンは少し困ったように、そしてとても嬉しそうに笑った。

「じゃあ、イチカ。一緒に歌おう。メロディは覚えてる?」
「……多分」
「ついていく方が難しいから、先に歌って」
「……分かった……」

イチカは目を瞑る。ゆっくりと深く息を吸い込んで……目を開くと、イチカは歌いはじめた。
思わず、状況を忘れた。
その声の美しさに。
水晶の洞窟に新たな光が差し込んだようだった。
少し遅れて、そこにアイマリンの歌声が寄り添っていく。
二人の歌声は似ていて、それでいて異なっていた。
別の色の宝石のように。青空と夜空のように。
違うのにひどく似ていて、どちらも魅力的な歌だった。
二つの旋律は時に寄り添い、時に離れながら、やがて一つに融けあっていく。

「……カイトさん! あれ!」

同じように聞き惚れていたイサナが、小さな囁きでカイトに注意を促す。
洞窟の中央の大きな水晶に光が宿っていた。
その光は次第に強くなっていく。
二人の輪唱が終わった時、その輝きは最大となり……そして、突然消えた。

「承認された」
「そのようだ」

歌い終えたアイマリンとイチカが顔を見合わせている。カイトには分からないが、何かが起きたらしい。その結果は、突然現れた。
洞窟中の水晶が別の輝きを点したのだ。単なる光ではない。
それは光で出来た高速で流れる文字列だった。
洪水のような文字が怒濤のように水晶の中を流れていく。
あまりにも速く、カイトでは読むことが出来ない。

「な、何これ⁉︎」

「……似たようなものを見たことがある」
「イチカ、本当?」
「……さっきまで思い出せなかったことが、思い出せるようになっている。私の記憶の中に似たような光景がある」

イチカの言葉に、イサナが目を見開いた。

「記憶制御が解けたんですか⁉︎」

「……多分。少しだけだけど」
「凄い……凄いですよこれは! 《S_N》の記憶制御に対抗出来る力があるってことです!」
「《S_N》……そう、《S_N》の中だ。こういう景色を見たのは。あいつらは……確か、『外部アクセス』だと言っていた」

イチカの発言によほど驚いたらしい。イサナは変てこな声を出した。

「ひょええ⁉︎ 『外部アクセス』……? ……これが、そうだと?」
「……あいつらは、そう言っていた」
「イサナ、どういうことだ?」
「え、えーと……私も今混乱してまして……あー、どこから話そうかな、ええっと」
「見て!」

わたわたと話すイサナを、アイマリンの言葉が止めた。
水晶の様子がまた変わったのだ。文字列は消え……何かの立体映像が浮かび上がる。
一見、単なる立方体の組み合わせに見える。だがそれは建物の立体図面だとカイトは気付いた。
完璧な均衡を保つ立方体が組み合わされた建築物のことをカイトはよく知っていたからだ。

「《EDEN統括ライブラリ》?」
「カイト、知ってるの?」
「誰でも知ってるだろ? 《ELEUSIA》の中心……《EDEN社》がある場所だよ」
「へえー……なんか、四角いんだね」
「《EDEN社》の設計は全てそうです。効率的で無駄がなく、つまらない」

図面が拡大する。
建築物からは地下に向かって柱のような空間が伸びているようだった。
その構造はどこかに似ていた。
そう。

「……ここに似ているな」
「《EDEN統括ライブラリ》の奥にここのような場所があるということでしょうか……? 機密情報もいいところですね」
「《S_N本部ノード》」

イチカが呟く。

「ここに降りてくるエレベーター。どこで見たのか思い出した。《S_N本部ノード》の奥に似たものがある」
「《本部ノード》って……敵の本拠地じゃないですか!」
「見て! 色が変わった」

地下空間の一部の色が変わる。

「なあ……これってさ」
「なんですか、カイトさん」
「ここに行けってことだよなあ……敵の本拠地ど真ん中に」
「……そういう風に見えます、ねえ」

その時、アイマリンとイチカが急に声を上げた。

「……!」
「えっ⁉︎」

「あ、消える」

立体映像が消えていってしまった。周囲の水晶の光も元通りになる。

「これで……終わりってことか? さっき、急にどうしたんだ?」
「そっか、カイトたちには聞こえなかったんだ。私とイチカには聞こえたの。たぶん、《遺跡》の声だと思う」
「……なんて?」
「《鍵》を持ってそこまで行け」
「……《鍵》? 《鍵》ってなんだ?」
「さあ……そこまでは」

それから、しばらくその場所で、もう一度歌ってみたり、調べ回ったりしてみたものの、それ以上の情報は得られないようだった。
カイトたちは《遺跡》から出ることにした。幸い、エレベーターは元通り動いてくれた。

***

《遺跡》を出たところで意外な人物と遭遇した……人物、と言ってよいのか分からなかったのだが。

「お嬢ちゃん、小さい方のお嬢ちゃん……それから……別のお嬢ちゃん!」
「おい、俺はどうでもいいのか」
「おお、カイトもおったのか……って冗談じゃ! 棍棒で殴るでない!」

待っていたのはファーブニル、あの竜だった。
どうやら、火山の噴火から様子を見に来たところだったらしい。

「なあ、だったらまた乗せてくれないか?」
「ふむ、人数が増えておるが……カイトの頼みだったら仕方ないのう……」
「カイトの頼みなら?」

何故か不思議な顔をするイチカ。
その時、いまさらながらカイトは気付く。

「……あれ? ファーブニルってここまで飛んでこられるの?」
「そりゃそうじゃ。ここはまだアセット内じゃからなあ」
「だったら、《地下迷宮》なんか通らずにここまで、直接送ってもらえばよかったじゃねえか! おい頭脳担当!」
「はっ⁉︎ た、確かにそうです! うっかりしてました。なんか、つい順番に行かなければいけない気がして」
「あはは、真面目なイサナらしい」

イチカがこてんと首を傾げた。

「……そうなったら私は《死者の王》にやられていたかもしれないが」
「そうだね。じゃあ、大正解だったってことだね!」
「そうです! 大正解だったってことです!」
「開き直りやがってポンコツ頭脳担当が」
「誰がポンコツですか! カイトさんには言われたくありません!」
「やかましいのお……背中の上で騒ぐでない……」

ファーブニルの飛行速度は素晴らしく、あっというまに《大森林》の入り口まで着いた。

「また遊びに来るがよい。お嬢ちゃん、また歌を聞かせておくれ」

ファーブニルに別れを告げる。《大森林》の入り口から《はじまりの村ゲルト》まではすぐだった。
あの酒場に入り、作戦会議をすることにした。

「次は《EDEN統括ライブラリ》に行く必要があるってことだよな?」
「そうですけど、いくらなんでも難しいですよ。《EDEN社》のど真ん中ですよ?」
「そりゃそうだろうけど……他にやれることもないし」
「でも《鍵》はどうするの?」
「あーそうだ、それもあった。なあ、イチカ、《鍵》って一体なんだ?」
「……不明。もぐもぐ」
「あっ、イチカ! お前全然喋らないと思ったら、ずっと食べてやがったのか!」
「私の分まで食べてる⁉︎」

「……これは私のもの。もぐもぐ」
「貴様ぁ! 食べものの恨みは……」
「ちょ、ちょっと! 落ち着きましょうよ! もう一つ頼めばいいじゃないですか」
「さすが頭脳担当! 鮮やかな解決だな! 店員さーん!」
「いや、こんなことで頭脳担当と言われても。それより、《EDEN統括ライブラリ》の話を」

酒場の店員がすぐにやってきた。

「注文伺いまーす」

「あ、同じものおかわりもう一皿……いや、二皿で!」
「ありがとうございます……あのー、聞こえちゃったんですけど、お客さんたち《EDEN社》に行くんですか? やっぱりアレ見に行くんですか?」
「……アレ?」
「あれですよ……テロリスト……逮捕された自由なんちゃら……」
「《自由機甲楽団》?」
「あーそうそう、それですそれ。それの公開処刑やるって話」

あっさりと言った店員の一言に、カイトたちは一瞬言葉を失い……鸚鵡返しに口にした。

「……公開処刑⁉︎」