「昔のアイマリンバンドの最後の一人……キーボードのレイにようやく連絡がついた。協力するのに問題はないので、今日のリハーサルに参加するそうだ。なんでも参加するに当たって条件があるため、それについてはリハで相談したいということだった」
ボニート、ヘリング、カトラス、モーレイの協力を取り付け、残っていたメンバーはレイという女性キーボーディストだけだった。なかなか捕まらないらしく、ひとまずレイを除いたメンバーでリハーサルをすることになったのだが、リハーサルの当日、ボニートから伝えられたのはこんな一言だった。
「ありゃ、なんか拍子抜けだな」
「いいじゃないですか……ちょっと交渉が濃かったので、その気持ちは分かりますが」
リハーサルのスタジオに入る。一見、倉庫にしか見えない建物の中が改造されていたのだ。《EDEN社》が許すはずもなく、当然違法だろう。
《アドケア》のような《主都》から離れた街には、こんなものもあるのか、とカイトは驚く。
「《EDEN社》はどうしてこんなものの存在を許してるんだ?」
「カイトが思ってるほど、《EDEN社》の監視だって完璧じゃないってこと。カイトは自分の部屋の隅々まで……しまったもの全ての場所を完全に覚えてることって出来る?」
「もちろん出来るわけないな」
アイマリンの言葉に首を振る。カイトは片付けが得意ではない。
アイマリンはなぜか嬉しそうににっこりと笑った。
「今度掃除してあげるね」
「い、いや……それは」
(それはまずい。色々とまずい気がする)
動揺するカイトを見て、ますますニコニコとするアイマリン。
「まあ、そういうこと。この世界の全てを監視するっていうのは、自分の部屋の……それこそ埃一つにいたるまで把握するようなもの。そんなこと、誰にも不可能よ」
「そもそも《EDEN社》は全ての管理者権限を持っているわけではないのです。前に言いましたよね、《EDEN社》は《ELEUSIA》を乗っ取っただけだと。もう少し詳しく言うと、《EDEN社》はその前身となるシステムを発見したんです」
カイトたちの会話を聞いていたイサナが言う。
「なるほど、そういうことか。つまり……どういうことだ?」
「なんで一回理解したフリをするんですか。《クオンタイズ》以前、ネットワークは世界中を覆っていました。その奥底に《S.E.A》と呼ばれる、自律進化したデジタル生態系が密かに育っていたそうです。そのシステムを、人間の居住に適するようにテラフォームした世界が《ELEUSIA》です」
「テラフォーム?」
「《EDEN社》が行ったことは二つ。人間の意識のデジタル化……《クオンタイズ》。そして《S.E.A》を基盤に、様々な世界を統合し、デジタル化した人間たちが移民出来るほど広い世界を作り上げた」
「あー、そういえばあの竜のいたところ。あそこは元々『RPG』とかいう別の世界用に作られていたんだっけ?」
「そういうことです。突貫工事で作られた世界である《ELEUSIA》の全貌は《EDEN社》ですら把握出来ていない。彼らがしているのは、その表面に管理された社会の布をかけて、自分のものだって主張しているだけですよ。そうじゃなかったら、アイマリンさんみたいな存在がいるはずもない。《EDEN社》からしても、その存在はイレギュラーなんですから」
「一体、アイマリンたちはなんなんだろうな。アイマリンも覚えていないんだろ?」
アイマリンは首を傾げる。
「うん……《遺跡》に行けば分かるかもってオルカは思ってたみたい」
「《遺跡》……あれもよく分からないな。《鍵》がどうこうって話だったよな?」
「これはあくまで私の仮説ですが……あの《遺跡》は《ELEUSIA》の基盤となった《S.E.A》に由来する、よりシステムの根幹に近い何かなのではないかと」
「でも、その謎を解くには《EDEN統括ライブラリ》の奥……《S_N本部ノード》とかいう敵の本拠地に行かなきゃいけないんだろ? 無理だよなあ、それは」
カイトはうーん、と悩んだが。
「ま、それより今はオルカたちを助けないと。というわけで、リハーサルとやらをやろうじゃないか」
「また仕切ってますね」
「いいねいいね。仕切ってくれないとはじめられないにゃ」
そう言ったのは、すらりとした短髪の美女である。襟足を刈り込んだヘアスタイルは男性的にも見える。耳には大量のピアスが輝いている。切れ長の瞳に、整った目鼻立ち。
近付きがたい雰囲気のクールな美人。
のはずなのだが。
「どうも、ボクはキーボードのレイだにゃん」
その口調が全てを台無しにしていた。
「……また濃そうな人が来たな。アイマリン、お前のバックバンドはこんなやつばっかりか」
「流石にカトラスとかとは一緒にしないでほしいにゃ」
「だったらその喋り方はなんだ! 猫耳もついてないのに!」
「ちょっとしたキャラ付けだにゃ」
カイトたちが話している間に入ってきた、この女性がキーボードのレイらしい。
カイト、イチカ、イサナの三人が自己紹介すると、「ボニートから聞いてるにゃ」とレイは頷いた。
「レイ! 久しぶり!」
「アイマリン、元気だったかにゃ? ……みんなが揃うのは久しぶりだにゃ」
「それでレイさんよ。条件ってのはなんだ?」
「む、もうその話をしちゃうにゃ?」
「早い方がいいだろ?」
急ににこやかだったレイの雰囲気が変わる。
「……ボクが参加するに当たっての条件。それはこの譜面をアイマリンとイチカに受け取ってもらうことだにゃ」
レイは抱えていた紙……譜面を机の上に置く。
「真面目な話をする時もその口調なんだな」
「急に戻すのも照れくさいにゃ。許してほしいにゃ。……これが、最後にボクが取りかかっていた曲」
音符を辿りながら鼻歌を口ずさんでいたアイマリンが何かに気付く。
「このメロディって、私の」
「そう、これはアイマリンがよく歌っていたメロディだにゃ」
「……私の一番古い記憶」
「バンドを辞める直前、ボクはこのメロディを楽曲に仕上げようとしていたにゃ。不思議な曲で、まるで導かれるようにアレンジが進んで……これはすごい曲になると確信したにゃ。だけど、途中で怖くなってしまったにゃ」
レイは言葉を選ぶように言う。
「この曲は……強すぎるにゃ」
「強すぎる?」
「おかしいことは色々あるにゃ。この曲に取りかかりだしてから、不思議な夢を沢山見るようになったにゃ。覚えていないような昔のことまで」
「おいおい、なんか怖いやつか? これ。俺ちょっと苦手なんだよなあ」
「カイトさんは少し黙っていてください」
「それに……一番おかしいのは、この曲が二人で歌う……デュエットの曲に仕上がってしまったことにゃ。ボクは、アイマリンが一人で歌うように書いていたのに。なぜかそうなっていたにゃ。……まるでメロディがそう望んだかのように」
レイはそっと譜面を撫でる。
それはまるで愛し子にするような動作だった。
「ボクは怖くなったにゃ。だけど……この曲は美しい。演奏してみたい、という気持ちを抑えられない。それが、バンドからボクが逃げ出した理由」
「その譜面を受け取ることがレイの条件?」
アイマリンの言葉にレイは頷く。
「ボニートから連絡があった時、逃げようと思ってたのにゃ。だけど、今回のバンドにはもう一人ヴォーカルがいると聞いて……。アイマリンみたいな力を持ったヴォーカルが、もう一人。ボクは分かってしまったにゃ。この曲は、二人のためにあったのだと」
レイはアイマリンを見つめ、それからイチカの方を見る。
「実は、この曲はまだ完成していないのにゃ。……曲としては完成しているはずなのに、明らかに何か欠けていて……それがなんなのかボクには分からないにゃ。でも、現時点でも二人でこの曲を歌えば、すごい力が生まれるはずにゃ。だけど、それがどういうことなのか……ボクには想像がつかないのにゃ。とにかく、この譜面が二人のためのものであるなら……ボクはこれを渡さずにはいられないのにゃ」
レイの深刻な雰囲気に、誰もが何も言えないでいるようだった。
カイトはあえて気楽な調子で口にする。
「いいじゃないか。受け取るだけだろ?」
「カイト?」
「そんなに脅してるけど、結局その曲を演奏するわけじゃないんだろ?」
「ボクとしては、受け取ってくれればいいにゃ」
「そういうことだ、アイマリン、イチカ。それを受け取ってやってくれ」
カイトはアイマリンとイチカへと頷きかける。
「分かった」
「……異存はない」
それを聞いて、レイは安心したような、より不安になったような複雑な表情をした。
「譜面をどうするかは二人に委ねるにゃ……だけど、くれぐれも扱いは慎重にしてほしいにゃ。特に二人で合わせるのは、覚悟を持ってやってほしいにゃ。さっきも言った通り未完成だし、何が起きるか分からないにゃ。……じゃあ、リハをはじめるにゃ」
「イチカ、バンドと歌うのははじめてだよね。大丈夫?」
いつも通り無表情ながら、そこにはいつもより不安げな色が浮かんでいたので、カイトはその肩をぽんと叩いた。
「イチカなら大丈夫だろ、《遺跡》でもいい感じで歌えてたし」
「……」
イチカはじっとカイトを見つめると、ぷいっと顔を逸らした。
その頬が少し赤い気がしたのは気のせいだろうか。
***
公開処刑の会場、《コアトリク・パーク》は典型的な《EDEN社》風の建築物というべき、巨大な四角い大空間だ。正確なグリッドで仕切られた空間は、《EDEN社》にとって重要な典礼や告示などを行うために使われている。
今、そこには多くの人間が詰めかけており、カイトとイサナはその中に紛れていた。
「そんなに人が処刑されるところを見たいかね」
「処刑は《EDEN社》によって推奨された娯楽ですから。ここに来ることで、市民としての評価にも加点があると言われていますし」
「あいつら、大丈夫かな」
「あっちにはアイマリンさんとイチカさんがいますからね。……むしろ、こっちが身バレして捕まらないようにしないと」
「……ま、そうだな」
パーク内には武装した兵士の姿も多い。《S_N》もいるはずだ。カイトたちはここに来る前にアイマリンによって書き換えを受け、髪や瞳の色など姿を偽装していたが油断は出来ない。
カイトたちが見つめる前で処刑の準備は坦々と進んでいく。その過程はタイムスケジュール通りで一切の乱れがない。《EDEN社》のやり方というのはいつもそうだ。
「……!」
イサナが息を呑む。
処刑台の上にオルカたちをはじめ、《自由機甲楽団》の面々が連れて来られたのだ。その姿はやつれ、髪や髭は伸びたままになっている。まともな扱いを受けていないのだろうと容易に想像がつく状態だった。
大好きな兄の悲惨な姿に、イサナの身体に力が入ったのが分かる。
「この者たちは、徒に世界に混乱をもたらしたテロリストである」
処刑台から目を離せば、少し離れたところに演台があり、そこに現れた人物が演説をはじめていた。
「……あれが、イチカさんの言っていたカンディルです。《S_N》のトップ……私たちの敵です」
「なんか……おかしな感じだな。見ても、なんだか覚えられないっていうか」
「ID偽装レイヤー。今、私たちがアイマリンさんにかけてもらっているのと同じようなものです。あの男の素顔は誰も知りません」
カイトは遠くに見えるカンディルの姿を見つめる。
なぜか、妙に意識がざわつく気がした。
それはID偽装レイヤーとやらのせいなのだろうか、それとも。
「……荒廃した世界に、人間の居場所はなかった。だからこそ、我々は人々をデジタルの新天地……この《ELEUSIA》へと導いた。それがあの偉大な直訳《クオンタイズ》だった。《ELEUSIA》は衛星の軌道上に設置されたサーバー内で展開する世界。その資源には限りがあり、人が生きることはすなわち破滅を意味する。故に、《EDEN社》……そして我々《S_N》は厳格な管理社会を作り上げた。最大多数の人々が永遠に幸福でいられるような優れた仕組みだ。だが、この者たちはそれを破壊しようと試みた。自由という名の悪魔の誘惑に負けたのだ」
カンディルの隣には、《MPD》を携えた雷魚が控え周囲を警戒している。
「この者たちの罪は多い。その中でも特筆すべきなのは、悪魔の歌い手とともに行った所業だ。聞いたことがあるだろうか、アイマリンという存在とその歌について。どこから現れたのかすら不明なアイマリンの正体を《S_N》は突き止めた。それは、このシステムを破壊するプログラムに他ならなかったのだ。人間に与えられた最後の居住地、この《ELEUSIA》を破壊するためのウィルス」
(アイマリンが……世界を破壊するプログラム? それに、ウィルスって何だ? 知らない言葉なのに、妙に嫌な感じがする)
カンディルの言葉に疑問を抱くカイト。
だが、その時、事態が動く。
処刑台を挟んで演台と反対側。その一帯に集団が雪崩れ込んできたのだ。
その正体をもちろんカイトは知っている。
「好き放題言ってくれるじゃない?」
そう言ったのはアイマリン。
「私たちは《自由機甲楽団》。さあ自由を愛する者よ、私たちの下へ集え!」
《市場73》でのゲリラライブ。
全てがはじまったあの時以来、久しぶりに聞いた、その言葉。
その声はアイマリンとイチカ……二つに増えている。
爆発するように《波》が広がり、そこを中心に一気に空間が書き換えられていく。
たった一音で、カイトはその音の渦に囚われていた。
――自由を。
――ただ、それを求めただけで、今処刑されようとしている友を救い出せ。
その痛烈なメッセージが、空間そのものを書き換えていく。
捕らわれたオルカたちのいる処刑台にその力が及ぼうとした時。
「対抗処理を開始せよ!」
カンディルの号令で、《S_N》の兵士たちが一斉に《MPD》を照射した。
見慣れない色の光線が飛ぶ。
それはどこか、見覚えのある色だった。
(当たった場所の空間が元に戻っていく⁉︎)
「あの光……あれはイチカさんの《波》です!」
イサナの言葉で、その正体に気付く。
《S_N》はイチカの力を研究し、アイマリンの書き換えに対抗出来るようにしたのだ。
戦いがはじまった。
それはバンドと銃による、奇妙に噛み合わない戦いだった。
《市場73》で演奏していた今のバックバンドも凄かったが、急遽再結成されたバンドも甲乙つけがたい実力である。
ボニート、モーレイのリズム隊は堅実で、そこに派手なカトラスのギターが絡む。
レイはモーレイが嫉妬したのも分かるように確かに天才的で、時に激しく演奏したと思えば、時に叙情的に感情の奔流を鍵盤に流し込む。その強烈な振れ幅にカイトの心は揺さぶられる。
ヘリングは本当に手拍子をしているだけだった。やっぱりいらない気もする。だが、ヘリングを見ている観客の熱量は上がっている。
バンドのクオリティは《市場73》の時と拮抗していたが、はっきりと進化しているところもある。
第二のヴォーカルの存在だ。
アイマリンとイチカは、交替で歌いながら、時にハーモニーを奏でながら、競い合うように互いを高め合っていた。
観客は……カイトは、イサナは熱狂する。
戦況はアイマリンたちに有利に運ぶ。
演奏が熱を増すに連れて空間の書き換えは徐々に《S_N》を凌駕し、ついに処刑台にまで及んだのだ。オルカたちの拘束はバラバラに解ける。
「やりました‼︎あとは脱出するだけです!」
隣でイサナが歓喜に満ちた声で言う。
だが、カイトの頭の中では違和感があった。
(おかしい……こんなに簡単に……?)
ステージ上のアイマリンたちも作戦の成功に気付いたのだろう。
曲のエンディングで、演奏が一度休止する。
ステージ上には、どこか緩んだ空気が流れている。
アイマリンがにっこりと笑って、群衆の中に紛れていたカイトの方を見る。
どうやらアイマリンからはこちらのいる場所が見えているらしい。イチカには見えておらず、捜しているようだった。
二人の様子に、カイトは思わず噴き出しそうになり、胸の中の不穏な感覚を忘れた。
その瞬間だった。
「カイト‼︎ 後ろ‼︎」
ステージ上のアイマリンが叫び、その声に咄嗟に振り返ったカイトが見たのは。
こちらに向けて突撃してくる雷魚の姿だった。
「ガキめ、かかったな‼︎」
カイトには奇妙なスローモーションで見えていた。
雷魚が《MPD》を構え、その銃口をカイトに向け、引き金を引く様が。
閃光が視界を埋め尽くし、焼き切れる。
消えていく意識の中で、カイトに理解出来たのは、自分が雷魚によって撃たれたことだけだった。
***
そこは光のない場所だった。
あたたかい何かに包まれ、【僕】は漂っている。
ざわめき。遠くから、近くから伝わってくるくぐもった振動。
(潮騒)
気が付く。
ああ、これは夢だ。いつかも見た夢。
【僕】が……【僕】の意識が生まれた場所の。
だけどおかしい。
ここには誰かがいたはずだ。僕以外の心臓の音が。
だってここは……。
ここは、胎内なのだ。
この場所には、母親がいるはずなのだ。
子守唄を歌ってくれる母親が。
なのに、どうしてここには誰もいないんだろう。
どうして、歌が聞こえないんだろう。
どうして、どうして、どうして。
どうしてこんなに頭が痛いの。
どうして誰もいないの。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして……
***
ひどく頭が痛かった。
うめきながら、カイトは自分が目を覚ましたのだと気付く。
「カイトさん⁉︎ 目が覚めましたか?」
明るい色の髪の少女が、その瞳に心配そうな光を浮かべながら覗き込んでいる。
「う……イサナ……か?」
「はい、私の言うことが分かりますか?」
「……ああ」
「カイトさんは雷魚に撃たれました。鎮圧用のパラライズモードですから、命に別状はありませんがしばらく気を失っていました。そのまま横になっていてください。全身に痛みがあるはずです」
イサナの言う通りだった。全身が痛い。特に頭は割れるように痛かった。
「しばらく……? どれくらい?」
「半日ほど」
(半日……?)
その言葉を理解して、カイトは、がばっと起き上がる。
体中に激痛が走り、カイトは呻いた。
「ダメですってば!」
「……一体どうなった? アイマリンは……イチカは? ここはどこだ?」
半日も自分は眠っていたらしい。
カイトが見回すが、そこにいたのはイサナだけだ。
カイトが寝ていたのは、よくある《EDEN社》式のアパートメントの殺風景な寝室だった。
「……ここは《自由機甲楽団》のセーフハウスです。別の部屋に仲間がいます」
イサナは目を逸らしながらそう答える。
その態度で、カイトはわざとイサナが最後の質問にしか答えなかったのだと気付いた。
「イサナ。……どうなったんだ? 二人はどこにいる?」
びくっとイサナは怯えたような反応をする。
「……それは」
「答えてくれ」
「私たちは……この世界を壊してしまいました。このままでは沢山の人が死んでしまいます」
(一体、何の話だ?)
イサナが何を言っているのかカイトには理解出来ない。
だが、それよりも先に聞かなければならないことがある。
「アイマリンとイチカはどうなった?」
「アイマリンさんと、イチカさんは……《S_N》によって捕らえられました」