アイマリンプロジェクト
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第8話 バンドメンバー募集

公開処刑。
有史以前から続くそれは、啓蒙と娯楽を兼ねた祝祭だと《EDEN社》は説明していた。
近代社会において、一時的に公開処刑は姿を消した。しかし《クオンタイズ》の後、《EDEN社》はそれを復活させた。《クオンタイズ》以降、大半の娯楽が姿を消したのとは対照的に。

「……私たちが情報そのものになったこの世界で、情報の管理とは全てを管理することです。それは芸術や娯楽で特に顕著でした」

イサナの説明を聞いたカイトは唸った。

「うーん、俺が知りたいのはそういう情報じゃないんだよなあ。そんな歴史の話をされてもなあ」
「公開処刑について、とにかくなんでもいいから教えてくれって言ったのはカイトさんじゃないですか……」
「なんかヒントになるかなと思ったんだけど、思ったより役に立たなかったな」
「……クソが」
「もうちょっと役に立ちそうな情報くれよ。具体的なやつ」
「だから、そんなのあるわけないでしょうが! 今分かってることは、《主都》中央広場……《コアトリク・パーク》で《自由機甲楽団》が処刑されるっていうことと、公開処刑の日時……それだけですって」

イサナの言葉にアイマリンが頷く。

「《EDEN統括ライブラリ》に行く話は一旦お預けだね。……みんなを助けないと」

その時、イチカが口を開いた。

「……私も手伝わせてほしい」
「イチカ?」
「私は私のことが知りたい。だから《S_N》に協力していた。だが、あいつらが私にしたことは記憶を封じること……私の望みとはまるで逆だった」
「イチカさんは騙されてたってことですね。それがやつらのやり方ですよ。公開処刑なんて悪趣味なことをすることからもよく分かるでしょう」

イサナが嫌そうに吐き捨てる。

「私の記憶制御はごく一部しか解けてはいない。私が何者なのかは分からないまま。……だが、一つ確定していることがある」

イチカの瞳の中に強い光が点る。
無表情に見えるイチカの顔。だが、慣れてくればその瞳はとても雄弁だった。
イチカは怒っていた。すごく。

「あいつらは私の目的とは相反している」
「つまり、イチカは俺たちの仲間ってことだな。敵の敵は味方」

そう言ったカイトの言葉を聞いてアイマリンはきょとんとした。

「そりゃそうでしょ、カイト、いまさら何を言ってるの? イチカはとっくに仲間でしょ」
「……仲間?」
「カイトさん、アイマリンさん。忘れているかもしれませんが、イチカさんは《水晶宮》を襲ってきました。オルカお兄ちゃんが……私たちの仲間が処刑されそうなのは、イチカさんのせいです。……《地下迷宮》から一緒に行動しておいていまさらですが、仲間という言葉を使うのには抵抗があります」
「そう……私はお前たちにとっての敵のはずだ」

噛みつくようなイサナの言葉にアイマリンは首を振る。 

「でも、イチカは騙されてただけなんでしょ? しかも、処刑を止めるのを手伝おうとしてくれてる。……だったら、一緒に戦おうよ」
「カイトさんもそれでいいんですか」
「うーむ。あのホネとの戦い、イチカがいないとヤバかったしなあ」
「……」
「単純な話、イチカの戦力はどうしても欲しい。今まで、まともに戦えるのはアイマリンだけだった。《波》が使えるのが二人になればそれだけで戦力が二倍だ」
「それは……そうですが」

イサナはカイトの言う理屈を理解している。
だが、感情的に納得はしていないようだった。

「分かりましたよ……でも忘れないでくださいね。私はまだ許してませんから」

「だから、無事にみんなを助けられたら許すってことでいいだろ」
「……どうすればいい?」

イチカがカイトをまっすぐに見つめる。

「……それはな」

カイトはイチカをしっかりと見つめ返しながら、堂々と宣言した。

「俺には全く分からん」

六つの瞳が呆れたようにカイトを見つめていた。

「……」
「カイト……」
「カイトさん……?」

カイトは肩をすくめる。

「そんなん俺に分かるわけがないだろ。分かってるだろ、お前ら三人の方がよっぽど頼りになる」
「うう、言われてみれば、確かに……」
「でも、そんなに堂々と言い放つのはどうかと思いますよ?」
「……カイト、お前は役立たずなのか?」

そう言ってこてんと首を傾げるイチカ。その動作は可愛らしいが、内容はひどいものだ。
しかし、《波》とかいうよく分からない能力があるアイマリンとイチカ、膨大な知識を持つイサナに比べてしまうとそう言われても仕方ないな、とカイトは腹も立たない。

「勘弁してくれ、俺はちょっと前に《自由機甲楽団》になりゆきで加わっただけのド素人だぞ? たまたま、アイマリンの歌を聞いたからここにいるだけで……ん?」

言いながら、カイトは何かが引っかかる。

「どうしました?」
「公開処刑……なあイサナ、公開処刑は公開されているんだよな?」
「変なことを言いますね、当たり前じゃないですか」
「誰でも見に行ける?」
「そのはずです。まあ身元確認はされるでしょうが」
「《波》を使えるアイマリンなら、それくらいは誤魔化せるし……群衆が詰めかける会場……うん、いけるかも」

ぶつぶつと呟くカイトを、三人が見つめていた。
その視線に気付き、カイトはニヤリと笑った。

「……歌だ」
「歌?」

歌と聞き、条件反射のように瞳を輝かせるアイマリン。

「そう、アイマリンは《市場73》の広場で大規模な書き換えを行っていた。歌の力で……そうだな?」
「うん」
「だったら、同じことが出来るはずだ。公開処刑の会場で」

カイトの言葉を理解したイサナが呟いた。

「《市場73》と処刑会場である《コアトリク・パーク》のセキュリティレベルは違うでしょうが……それでも出来るかもしれません。今は、同じ力を持つイチカさんもいますし」
「私?」
「アイマリンさんとイチカさんの《波》の力はよく似ています。アイマリンさんは歌によって《波》の力を引き出すことが出来る……イチカさんの歌も加われば可能性は上がるはずです」

イサナの言葉に対し、アイマリンが申し訳なさそうに言った。

「ごめん、今は難しいかも。あれをやるにはバンドがいる」
「ああ。そうでした……バンドのみなさんも……」

イサナは、アイマリンの言葉の意味を理解出来たらしい。だが、カイトには分からなかった。

「どういうことだ? 説明してくれ」
「私一人で出来ることはそんなに多くない扉を開けたり、戦うための《波》を引き出すことは出来る。でも、それ以上のこと……あのゲリラライブみたいなことをするためには、バックバンドが必要なんだ。音楽の力は、うまく合わせれば強くなるから」
「そういえば、あの時もバンドがいたな。あの人たちは……」
「……全員、逮捕されてしまったと思います」
「演奏を他の誰かに頼むわけにいかないのか?」
「強い力を引き出すためには、本当に相性のいいバンドが必要だから、なかなか……やっぱり、一緒に演奏した経験がある相手じゃないと……」

そこまで言ったアイマリンは、何かに気付いたようだった。

「あ」
「……いますね」

アイマリンとイサナが目を見交わした。
説明を求めてじっと見つめるカイトに、イサナは肩をすくめて説明する。

「実は、今のアイマリンさんのバックバンドは二代目なんです。私の記録によれば初代は『音楽性の違いにより』解散しているはずです」
「……音楽性の違い? それはどういう意味だ?」

イチカの言葉に、アイマリンは暗い表情で床に目を落とした。

「私にも分からないんだよね……なんか、ある時期からだんだんうまくいかなくなって……気が付いたらバラバラになっちゃって……そのまま《自由機甲楽団》も離れて……」
「音楽性の違い、というのは、他に理由がある時に使う言葉だそうです。まあ、単なるごまかしですね」
「ああ、そういう……イサナはほんとしょうもないことばっかり知ってるな」

「しょうもないってなんですか!」
「……そのバンドはどこにいる?」
「今は《主都》から離れた、《EDEN社》の監視が緩いエリアに住んでるはず」
「ってことはだ。もし、そいつらが協力してくれたら……《コアトリク・パーク》の書き換えは出来るか?」

アイマリンは何かを懐かしむように遠い目をする。

「今のバンドも気に入ってるけど……あの時のバンドも本当に凄かった。もう一度あのメンバーでやれるなら……そして、そこにイチカが加わるなら」

一度瞳を閉じてから、アイマリンは目を見開く。そこには強い意志の光が宿っていた。

挿絵

「出来るよ。やってみせる」
「……決まりだな」

カイトは三人の顔を見回すと、力強く宣言した。

「俺たちはバンドメンバーを集め……公開処刑の会場でゲリラライブを決行する」
「俺たちって言ってるけど、カイトさんはライブしないですよね?」
「……ちょっと格好つけさせてくれてもいいじゃないか」

《アドケア》は《主都》からは離れた……しかし、それほど遠くない距離にある街だった。
アイマリンが説明した通り、《EDEN社》の監視はそれほど厳しくないのだろう。カイトたち一行が入ったカフェは、日の光が差し込む空間で、穏やかな空気が流れていた。
イサナがカイトに説明する。

「この街は色々な理由で《自由機甲楽団》を離れた人が住んでいる街の一つです」
「《自由機甲楽団》って辞めてもいいんだな」
「私たちは自由愛する組織。抜けるのも自由ですよ」
「その後はどうしてるんだ?」
「人それぞれですね。一番多いのは、抜けた後も連絡を定期的に取り続けて、協力者になってもらう形でしょうか? 事情があって《EDEN社》と戦い続けるのは難しくても、心情的には私たちに協力的な人がほとんどですからね」
「定期的に連絡をするのは……記憶が更新されないからか」
「そうです。逆に本当に関係を切りたい場合は連絡を絶ちます。そのまま一年経てば、記憶の大半は消えてしまいますから」
「つまり、この人たちはそういう協力者ってわけだ」
「はい」

頷くイサナ。それを見て、話し出すきっかけだと思ったのだろう。
向かい側の席に座った痩せた長身の男と、小柄な坊主頭の男が自己紹介する。

「……どうも、ボニートだ」
「へリングっす」

このカフェで待ち合わせをしていた相手である。
カイトはアイマリン、イサナと並んで座っていた。
さらに隣にはイチカもいるのだが、会話に加わる気がないのか、黙々と一人で注文した巨大なパフェを食べ続けている。

「お久しぶり」
そう言ったアイマリンだったが、ボニートとヘリングは少し気まずそうな表情だった。
「アイマリン、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「私は元気だよ。……ただ、みんなが」
「ああ……だよな……俺たちもみんなが捕まったって件は聞いてる。話っていうのはそのことだろ?」
「そうなんだ、あんたらに相談がある」

そう言ったカイトを、ボニーとヘリングは胡乱げに見つめた。

「あー、アイマリンの姉御、先に聞きたいっす。こいつは一体誰なんすか?」

ヘリングがそう言うので、カイトも自己紹介をする。

「自己紹介がまだだったな、俺はカイト。このパーティの会話担当だ」
「このパーティ? 会話担当?」
「……自己紹介なのに意味が全然分からないっすね

イサナが溜息をつく。

「話がややこしくなるので、今はあんまり気にしないでもらえると助かります」
「まあ、イサナちゃんがそう言うなら……」
「俺以外は……元々アイマリンとイサナは面識があるんだよな。あ、それから後もう一人そこに座ってるのがイチカゼロだ」

自分の名前を聞いて、イチカは一瞬パフェを食べる手を止めたが、一度だけ頷くとそのままパフェを食べはじめた。

「……もぐもぐ」
「イチカは生まれてはじめて食べるパフェに夢中になっているところなので、気にしないでいい」
「最近の《自由機甲楽団》は個性的な人材を集めているようだな……オルカの方針か?」
「違います。あんまり気にしないでもらえると助かります」

ボニートの言葉をイサナが即座に否定する。

「えーと、で、ボニートさんの担当はドラム……で、ヘリングさんはDJと」
「そうだ」
「そうっす……やっぱこいつが喋るんすね」
「会話担当だからな……会話をしないと存在感が薄れるだろ? 戦いになったら隠れてるしかないし」
「なんか胸張ってるけど、相当情けないこと言ってないすか、こいつ?」
「あんまり気にしないでもらえると助かります」

そんなにおかしなことは言っていないと思うのだが。
それに、イサナ、さっきからそれしか言ってないぞ?

「ドラムっちゅうのはあれだね、後ろの方でドコドコ叩いてるやつね」
「その言い方はどうかと思うが、まあ、そうだ」

眉をひそめるボニートは無視して、

「そっちは分かるんだけど……DJってのはなんだ? こういうのって普通?」
「聞き捨てならないっすね、バンドにDJがいちゃ悪いんすか?」
「いや別に悪いってわけじゃないが……聞き慣れない言葉だったもんで」
「さてはカイトとやら、《主都》出身っすね。DJも知らないなんて。《主都》なんてド田舎にはろくなパーティもないっすからね」
「《主都》がド田舎……?」

カイトはヘリングの言葉に衝撃を受ける。
言うまでもなく《主都》は《ELEUSIA》の中心である。《EDEN社》による管理によって息苦しくはあるが、《ELEUSIA》で最も発展した場所だ、とカイトは思っていた。
それを、このヘリングというDJは「ド田舎」だと言ったのだ。

「《EDEN社》の締め付けが厳しすぎるんで、《主都》にはろくな文化がないっす。ド田舎っすよ」

「はあ、なるほどなあ……」

そういう考えもあるのか、とカイトはヘリングの意見に素直に感心した。

「なんか調子狂うっすね、こいつ……」
「で、何の話だっけ?」
「会話担当って言いながら、カイトさん全然ダメじゃないですか。二人に相談する流れでしたよ」
「あーそうだった。相談ってのはな……」

カイトが声を潜めて、公開処刑会場でのゲリラライブについて説明すると、二人の顔は完全に引きつっていた。

「……《コアトリク・パーク》でゲリラライブ」
「命知らずってレベルじゃねえっすよ、それは……」

そう言った二人に対して、アイマリンが反論する。

「私は、みんなが集まれば出来ると思う。それに」

アイマリンはパフェをほぼ食べつくしながらも名残惜しそうにちびちびとスプーンですくっているイチカを示す。

「このイチカは、私と同じように歌える。《波》も使える」
「……マジかよ」
「パフェの妖精かなんかかと思ったっす」

ヘリングの言葉を聞いてかどうかは分からないが、イチカはパフェの器をどん、とテーブルに置くとカイトに向かって言う。

「カイト、おかわりしていい?」
「……マジかよ」
「妖精じゃなくてフードファイターだったっす」

二人の表情は、先程ゲリラライブについて話した時よりもさらに引きつっていた。

「もう一度バンドのみんなが集まって、イチカの歌も加われば、不可能じゃない。絶対に出来る……そうしないと、オルカも、他のみんなも助からないの。お願い、協力してほしい」

アイマリンの言葉にボニートとヘリングは押し黙る。思い悩む表情だった。

「そもそも、二人はなんでアイマリンのバンドを辞めたんだ?」

カイトがそう聞いてもなかなか答えようとしない。

「じゃ、まずはヘリングさんから聞いてみようか」
「ナチュラルに仕切るっすね、こいつ」
「会話担当だからな」
「そして意味不明っす」

「俺はバンドが嫌になったんじゃない……だけど、びびっちまったんだ。《EDEN社》と戦うことに」
「……それがあんたの『音楽性の違い』か?」
「そうだ……」

声を落としたボニートにアイマリンが語りかける。 

「ボニートが、争いが苦手なのは知ってる。だけど、もう一度だけお願い。そうしないと、みんな死んでしまう」
「お前の言っていることは、分かる……分かる、が……俺は怖い……」

ボニートの声は震えている。そのまま黙り込んでしまったせいで、テーブルには気まずい沈黙が……

「追加のウルトラジャンボデラックスマリンパフェでーす

「こっち」

挿絵

気まずい沈黙が流れた。一時的に中断されたことについて、誰もが気にしないことにしたらしい。
凄まじいスピードでパフェを食べる音が端の席から聞こえはじめたが、おそらく気のせいだ。気のせいに違いない。

「……そりゃそうだろうな。まともな神経だったら《EDEN社》に逆らおうなんて思うもんじゃない」

カイトは言いながら思い悩む。

「俺だって、いつのまにこんなことになってるけど普通に考えたら怖いよなあ。父親を捜すっていう目的もあるけど……それだけじゃとても割に合わない。うーん、俺はどうして協力してるんだ?」

カイトが聞くと、イサナは肩をすくめた。

「それ、私に聞かないでくださいよ、私と会った時には、もうカイトさんは《自由機甲楽団》に協力していましたし」
「そりゃそうか……えーと、きっかけは……《市場73》で……」

カイトは思い出した。
そうだ、俺はあの時……。
カイトはアイマリンを見つめる。その黄金の瞳は出会った時と同じように澄み切っていた。

「……アイマリン」
「私?」
「アイマリンの……歌だ。あれを聞いて、俺は思ったんだ」

カイトは俯いてしまったボニートに語りかける。

「この声を、音を、熱狂をずっと聞いていたいって」

ボニートが、はっと顔を上げた。その顔をまっすぐに見つめながら、カイトは続ける。

「それを《EDEN社》が許さないなら……戦うしかないって思ったんだ」

ボニートの瞳が揺れた。
瞳孔の焦点が一瞬ぼやけ、もう一度合った時、そこには別の光が宿っていた。

「……もし」

カイトを見つめながら、ボニートが口を開く。

「もし、他の全員が揃うなら。もう一度だけ一緒にやってもいい」
「ボニート!」
「……だけど、やっぱり怖いもんは怖い。だから一度きりだ」
「それでいいよ。ありがとう!」

安心したように笑うアイマリンからボニートは目を逸らした。

「じゃあもう一人……ヘリングはどうしてバンドを辞めた?」
「いやー、思ったんすよね。このバンドにDJっていらなくね、と」

カイトはそう言ったヘリングの顔をまともに見つめてしまう。

「……さっき怒ってなかったっけ。『バンドにDJがいちゃ悪いんすか?』って」
「それは一般論っす。あと他人に言われるとなんか腹立つっていうのもあるっすね。でも、アイマリンのバンドについては……俺がやってたの、手拍子だけっす。実質DJですらないっすよ」

「手拍子……だけ……?」
「そうっす。盛り上がるところで頭の上で手拍子するだけの仕事っす」

「……えっ、この人、必要だったの?」

カイトの疑問に、アイマリンとボニートは気まずそうに目を逸らした。

「ヘリングがいると……なんか盛り上がる気がするんだよね」
「妙な安心感というか……な……」
「でも、自分、バラードの間どうしてたらいいんすか。しかも、レイのやつが書く曲、どんどんしっとり歌い上げる系の曲が増えるし。まあ、そんな訳で自分は辞めさせてもらったっす」

「そうかあ……」

なるほど、これが音楽性の違いか。
と、カイトは実に納得出来た。

「それでその、どうなんだ? ゲリラライブをやるってことについては」
「別にやってもいいっすけど……自分、いりますかね?」
「うーん、そう言われると」

カイトは首を傾げたが。

「いるいる! ヘリングは絶対必要だよ!」
「そうだ! お前だけ逃げるなんて許さん。捕まるなら一緒だ!」
「嫌な本音が漏れてるっす。はあ。まあ、しょうがないっすかねえ……ま、もう一度くらいやってみたかった気はしてたっす」

とにかく、やってくれる気にはなったらしいのでカイトは安心した。

「よし、これで二人捕まえた。あと何人なんだっけ?」
「あと三人だね」
「……しかし、俺たちはともかく……あいつらは……」
「なかなか協力してくれない気がするっす」

「そうなのか?」
「ダメだよ、全員揃わないときっとうまくいかない。そう思うんだ」

アイマリンが決意を漲らせてそう呟く。
その言葉にはカイトと、イサナと、ボニートと、ヘリングに前向きな感情を呼び起こさせる響きがあった。
そして、次の瞬間。

「……ふう、ごちそうさま。……ん? 何かあったか?」

空になった器をテーブルに置いた音が響き、空気は台無しとなった。